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考察 ランデロンのクロノグラフ「cal.51」について

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こんにちは。久々の更新です。
通勤時間が往復4時間もあるので、ネタはちょこちょこ上がってます(笑)
ボチボチ更新していきますのでよろしくお願いします。

先日無銘のスイス製手巻きクロノを入手しました。
年代は1940年代と古いですが、珍しくスクリューバックで耐震装置もあり、実用性はバッチリです。
搭載されているムーブメントはランデロンの51という機械です。ランデロン社はエボーシュSAの廉価クロノを生産していたメーカーで、フォンテンメロンの支社ということです。
市場では安物と言われ低く見られていますが、実際の所はどうなのでしょうか。いままで僕が扱ってきたスイス製クロノグラフ(Lemania1873、Valjoux7750、Valjoux7733)と比較してみました。

1.ベースムーブメントの比較
ランデロン51
手巻き/18000振動/チラテンプ/スチールヒゲ
微動緩急なし/耐震装置あり
*チラテンプを採用しクラシカルなデザインだが、鉄ヒゲ+微動緩急の無いテンプに加え、アンクル停止量も大きいため脱進機のスペックは現行品と比べてしまうと今ひとつ。
ただし香箱がムーブメントからはみ出るほど大きく、ぜんまいトルクが大きいためテンプの振りは良好で姿勢差も実用に堪えるレベルだった。
また後期モデルには耐震装置を採用。華奢なアンクルとクリアサファイアの爪石はアンティークならではの美しさ。耐震受石の内側に拡散防止の切れ込みが入ってる所も古い時計ならではの特徴で、手が込んでいる。
スチールひげに加えてテンプも温度補正機能のない通常品であるため温度変化には弱い。
人気が無く安価なので新品の部品供給は無くともジャンクからの部品回収で維持できると推測。
☆精度=C

オメガ861
手巻き/18000振動/スムーステンプ/ニヴァロックスヒゲ
微動緩急あり/耐震装置あり
*基本設計は321からの古いもので、低振動ではあるが恒弾性ヒゲの採用、微動緩急機構などで十分な精度が出せる。
2レジスターモデルとの部品共通化が図られた汎用性の高いムーブメント。現行品ではあるが部品価格が高く、ランニングコストが高くつくのが難点。
スムーステンプのためデザインは今ひとつで、赤銅メッキ+チラテンプ採用の前身モデル321と比べると見劣り感は否めない。
☆精度=A

7750
自動巻/28800振動/スムーステンプ/ニヴァロックスヒゲ
微動緩急あり/耐震装置あり
*8振動と大トルクのゼンマイ、エタクロン機構の採用(アオリの微調整機構)、恒弾性ひげ、ベリリウム合金テンプの採用でクロノメーター級の精度も容易に出せる。モジュール付加によりいろいろな機能を追加したり、レイアウトを変更できる汎用性の高い優れたムーブメント。大量に流通しており部品の入手も容易。工業製品として非常に優れている。ブリッジは一体型でデザインは美しいとは言い難い。
☆精度=S

ロシア版7733コピー
手巻/21600振動/スムーステンプ/ニヴァロックス?ヒゲ
微動緩急なし/耐震装置あり
ヴィーナスの廉価版188をさらにコストダウンさせる目的で開発された7733のさらにコピー品。金型はヴァルジュー社からの払い下げとの噂だが、仕上げ、品質ともに良好とは言い難い。得に酷いのはシムを用いたテンプのアガキ調整。
通常テンプの縦アガキは穴石調整器を用いて耐震装置の高さを変えて行うべきであるが、この機械は薄いプレート(シム)をテンプ受けの下に数枚挟むことで高さをコントロールしている。また耐震装置はロシアオリジナルで、部品を紛失するとスイス製品は流用できない。
各部の調整もいまひとつで、固体によっては姿勢差が大きく出てしまい、調整できないものも(アオリをいくら詰めても平縦の平均歩度の差が20秒以上あったりする=脱進機誤差が非常に大きい)。
☆精度=E

2.クロノグラフ部分の比較

ランデロン51
カム方式/キャリングアーム採用/スライディングギア採用
*安物と言われるランデロンではあるが、キャリングアームとスライディングギア(独立していてリセット時等に稼動するクロノ中間車)を採用した本格的な構造。51はランデロンの中ではハイグレードなモデルらしく、線ばねの採用はわずか2箇所に留まり、ほとんどの部品が板材削りだしバネを使用。クロノブリッジはベーシックな形状で美しい。ハンマーもランデロン48系やヴィーナス188などの厳ついデザイン(仲間内ではイカと呼んでます)とは異なり、普通の形状のハンマーがカムの上に直接取り付けられている。カム式ランデロンの中では一番カッコいいハンマー。ハンマースプリングを持たない構造によりプッシュボタンの操作が比較的軽いため、カム式ながら操作感は軽快。マイナスポイントとしては操作が通常のクロノグラフとは異なる点(上ボタンがスタート、下がストップ&リセット)、ストップ時にクロノ輪列を止めておくブレーキ機構が無い点、ハンマーの下に入るので目立たないがカムの形状、一部レバー類が削り出しではあるがイマイチ安っぽい点が挙げられる。
☆機能=C 外観=B 操作感=B

オメガ861
カム方式/CA採用/スライディングギア不採用
*申し分ない構造。カム回りもピラー式の321からの進化のため、すっきりとして美しいカム形状をしている。キャリングアームやレバー類は流石しっかりとした作りをしている。
難点は以下。
スライディングギアがなく、クロノ中間車はブリッジの下に隠れてしまっている。おかげでクロノブリッジの形状もなんだか野暮ったい。
スタート時にはジャンパーで規正されたリセットハンマーを押し戻すため強い力が必要となり、クリック感はやや強い。
ねじの種類がやたらと多い。
ブレーキ機構もついているが、プラスティック製でデザイン面ではマイナスである(シースルー用に金属製もあり)。
☆機能=A 外観=B 操作感=B

7750
カム方式/スイングピニオン/スライディングギア不採用
*低コストなスイングピニオン方式を採用。針飛びも少なく確実で安定した動作をする。難点を挙げると主にデザイン面である。ミニッツジャンパーやフィンガー、クラッチスプリング等多くのパーツに安価なバネを使っている所が悲しい。またブリッジは直線的で、カム形状も味気ない。機構面では巻き上げ機構に不具合を起こすものが多く、切替車や角穴駆動車の破損が度々見られる。ローターが重いため、ベアリングも衝撃等によりダメージを受けやすい。
クロノスタート時に非常に固いハンマースプリングを持ち上げなくてはならず、また12時間積算計のリセットもプッシャーを押す力に依存しており(調整は可能だが)、操作感はいまひとつ。
☆機能=A 外観=D 操作感=C

7733コピー
カム方式/CA採用/スライディングギア採用
*後期のカム方式クロノグラフに見られる、カムと一体化したハンマー(イカ)のデザインが強烈。個人的には美しいという評価は出来ない。
また、175ベースとはいえ当時の面影を残す部品はほとんど無く、ブリッジは直線的で味気ない。
スライディングギアを採用しているのだが、スライディングギア自体のつくりが安っぽい。
キャリングアームは上下とも受け石を採用した高級品。
本家7733とは仕上げの美しさが異なる。廉価品とは言え7733もブリッジの仕上げは施されているが、中国やロシアの時計は削りっぱなしの上からロジウムめっきをかけており、瞬間に安っぽさが伝わってしまう。なぜか操作感も本物とは違い、非常に硬い印象を受ける。
☆機能=B 外観=D 操作感=C



まとめ・・・
主観的な考察ではありますが、ランデロンは名機1873には及ばずとも、実用もでき、絵的にも[見れる]ムーブメントであると結論づけます。
僕のランデロンは裏ブタを手締めしていて、いつでもムーブメントを眺めることが出来る仕様にしています(笑)
操作感もそこそこ気持ち良く、オーバーホールした直後の精度も日差+5秒と非常に良い結果を出しており、一年間断続的に使用しましたが、現状+10秒程度かと思われます。)

競合するカム式オールドクロノであるValjoux92やVenus140(線バネ多数+スイングピニオン方式で見栄えがイマイチ)、Venus188やValjoux7733(カム一体型のハンマーが異常に大きい&ブリッジが簡略化されて直線的)と比べると、ブランド名でこそ劣りますが、デザインやコストパフォーマンスを考慮すると十二分に良好なムーブメントと言えるでしょう。
また、手巻きクロノというジャンルは自動巻きクロノとは優劣のポイントが全く事なり、同じクロノグラフというくくりではありますが、方向性は全く異なる事が興味深いです。

ピラー式のムーブメントになると価格が一気に跳ね上がるため、カム式で手巻きクロノを探している方は一つぐらい持っていても良いかも知れません。
話は逸れますが、チャイナのVenus175コピー品、見た目はともかく操作性、精度は非常に高く、これも一本コレクションに入れても良いかと思います。追々購入して分解し、構造、調整レポートをお送りしようかと考えていますので気長にお待ちください。

長くなってしまいましたが、今日はこんな所で。

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